COLUMN コラム

ITコンサルタントの「中立性」はなぜ重要なのか ― パッケージ製品やクラウドサービス(SaaS)の選定を成功に導く“第三の視点” ―

コンサルティング事業本部
シニアコンサルタント 千葉 由紀祐

前回のコラム では、ITコンサルティングが果たす役割と、その必要性について概観しました。今回はその中でも特に重要なキーワードである「中立性」について、より深掘りしていきます。

「導入したのに、全然うまくいかない」
「せっかく整備したのに、業務部門でほとんど使われていない」
「思っていたより運用が煩雑で、かえって負担が増えた」

多くの企業がパッケージ製品やクラウドサービス(SaaS)を導入する中で、こうした声をよく耳にします。
技術そのものに問題があるわけではなく、多くの場合は「選定の視点」が曖昧なまま進めてしまったことが原因です。
この背景には、ITベンダーからの提案をそのまま採用してしまったり、業務部門の要望だけでシステム要件が決定されてしまったりといった、“偏った判断”が存在します。
その偏りを是正し、企業にとって最適な選択肢を導く存在が「中立的な立場のITコンサルタント」です。

ベンダー依存による選定ミスの実態

ある企業では、営業部門の要望を受け、特定のCRMツールをベンダーの提案通りに導入しました。ところが、入力項目が多すぎて運用が回らず、結果的に社内での利用率は10%未満。導入コストと教育コストだけが積み上がり、投資に見合う成果は得られませんでした。

原因は、「何が最適か」を判断する視点がなかったこと。
ベンダーは当然ながら自社製品を推します。クライアントが求める機能にフィットしているか、将来的な拡張性があるかといった観点を、第三者が冷静に評価する必要があります。

中立性が意味する「クライアントの最適解」へのこだわり

中立的なITコンサルタントは、ベンダーでもSIerでもありません。
「どの製品・サービスを売るか」ではなく、「クライアントにとって何が最も適しているか」を基準に選定を行います。

「製品・サービスの選定時に中立的に比較すべき主な評価軸」
評価軸 評価観点
機能 要件に対する適合度。過不足や拡張性も評価対象
運用負荷 業務部門での使いやすさ、運用手順のシンプルさ
定着性 業務プロセスや組織文化との親和性、ユーザー受容性
コスト 初期費用、保守費用、ライセンス体系の分かりやすさ
サポート体制 障害対応のスピード、日本語サポートの有無など
ベンダーロックインリスク 他製品・サービスへの乗り換えやすさ、標準技術の採用状況

たとえば当社では、複数の製品・サービスを同じ土俵で比較し、価格・機能・運用負荷・定着性といった複数の軸から“実際の利用者の立場に立った視点”で総合的な評価を行います。
また、必要に応じて「業務をシステムに合わせる」だけでなく、「システムを業務に合わせる」視点からの設計も検討します。さらに、製品・サービスがグローバルスタンダードであり、業務側の見直しが合理的である場合には、業務改善の提案も含めた支援を行います。

単なる機能比較だけでは見えてこない、企業文化や業務慣習との相性を踏まえた選定こそが、IT導入の成否を大きく左右します。この視点を欠いたまま導入されたシステムが、かえって業務部門の混乱や抵抗を招くという事例は、決して少なくありません。

また、近年、AIやグリーンITの進展により、企業のIT戦略は複雑化しています。中立的なITコンサルタントは、これらの最新技術動向を踏まえ、クライアントに最適なソリューションを提供する役割も求められています。

意思決定支援としての価値

IT投資において最も重要なのは「導入前の判断」です。
誰かの主観や営業トークだけに基づいた判断ではなく、関係者全体で納得感のある意思決定を行うためには、中立的な立場で選択肢を整理し、比較する必要があります。
特に大規模なIT導入では、経営層・業務部門・IT部門の利害が複雑に絡み合います。
その調整役として、意見を可視化し、ファシリテーションしながら“合意形成”を支援するのもITコンサルタントの重要な役割です。

「ベンダー主導とコンサル支援との違い」
観点 ベンダー主導の選定 中立なコンサルによる選定
判断基準 自社製品・サービスの販促が中心 クライアントの目的・要件に基づく
比較軸の設計 ベンダー任せ、偏りが出やすい 中立の立場で軸を定義、評価観点が明確
ステークホルダー調整 個別対応中心、属人的 関係者ヒアリングを通じて全体最適を重視
成果物の品質 提案資料に偏重、比較しにくい 要件整理・評価表・意思決定支援資料まで含む
成功率・定着率 利用されないケースも多い 業務適合性と運用視点を踏まえて定着性が高い

私たちはプロジェクト初期において、関係者ヒアリングと業務フローの可視化を徹底します。その上で、「業務部門にとって本当に負担が少ないか」「IT部門が運用しやすいか」「経営が納得できる投資効果があるか」といった複数視点での評価を行います。
意思決定においてもっとも厄介なのは、「論点がずれている」ことに気づけない状況です。
中立的なファシリテーターが入ることで、論点を整理し、会議の生産性を高めながら建設的な議論を促すことが可能になります。

特に近年では、企業の意思決定に求められるスピードと柔軟性が格段に高まっています。多様なクラウドサービスやAIツールの登場、支援スタイルの変化によって、企業は「何を選ぶか」「どう組み合わせるか」という判断の難易度が上がっており、その場その場での迅速かつ柔軟な意思決定が不可欠になっています。
そのような状況においてこそ、中立的な立場から多様な選択肢を評価・整理し、的確に導入を支援できる存在が、企業の意思決定力と競争力を支える鍵となります。

まとめ

製品・サービス選定やベンダー判断に迷ったとき、社内だけで議論していても結論が出ないことは少なくありません。
だからこそ、「中立的な立場から状況を整理し、最適解を提示する」第三者の存在が重要になります。
中立性とは、誰の味方でもないことではなく、「常にクライアントの味方であること」。
信頼できる相談役を持つことは、IT導入を成功に導く強力な武器になります。

実際に当社では、こうした中立的な視点によって、選定失敗やコスト超過を未然に防いだ事例が多数あります。
初期相談から選定支援、ベンダー提案の比較レビューなど、導入前のさまざまな局面でご支援が可能です。
「判断に迷っている」「選択肢の見極めに不安がある」といった段階でも、お気軽にご相談ください。

※当社が提供するコンサルティングサービス(PMO支援)は こちら です。

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