ITサービス運用における標準指針の必要性を認識した英国政府によって、ITサービスマネジメントのベストプラクティスを集約して体系化したものが、ITIL(Information Technology Infrastructure Library)の始まりです。以降、ITILは時代の流れと共に改訂が重ねられてきました。ITIL v3は、主に従来型の画一的なITサービス提供を想定しており、現在でも世界中で活用されています。
ただし、ITサービスマネジメントの進展にともない、アジャイル、リーン、DevOpsのような新しい概念に対応するため登場したのがITIL4です。今回は、新時代のITサービス提供に対応したITIL4についてお伝えしていきます。
ITIL®4とは
ITIL4は、ITサービスマネジメントのベストプラクティス(成功事例集)であるITIL(Information Technology Infrastructure Library)の最新版としてリリースされました。
ITILv3のサービス・ライフサイクルをベースにした考え方から、サービスの価値に焦点を当てた「サービスバリューシステム(SVS)」と呼ばれるアプローチへ大幅な変更が加えられています。この変更により、アジャイルやリーン、DevOpsといった最新のフレームワークを採用している組織にも適用できるようになりました。
ITIL®v3からの変更点
ITILv3からどのような変更がされたのか、順番にみていきましょう。
価値の共創
サービスバリューシステムのアプローチは、価値の共創に焦点を当てています。サービスプロバイダが顧客に価値を提供するという単一方向的な定義から、顧客と価値を共創するという新しい定義が採用されました。また、顧客やスポンサー、ユーザーを含む「サービス消費者」という用語が追加されています。
サービスバリューシステムの中核を担うのは、プロダクトやサービスの開発とマネジメントに関する活動を体系化したサービスバリューチェーン(SVC)と呼ばれる仕組みです。サービスバリューチェーンの詳細は後述します。
プラクティス
プラクティスは、ITIL v3のプロセスと機能に相当します。プラクティスの適切な組み合わせにより、バリューストリームが生成されます。バリューストリームとはサービスバリューチェーン上の特定の目的や課題に対して、誰がどのように対応をするのかプラクティスを一連の流れにデザインしたものです。
プラクティスには、主に次の3種類があります。詳細な内容は後述します。
- 一般的マネジメントプラクティス
- サービスマネジメントプラクティス
- 技術マネジメントプラクティス
ITIL®4の内容
冒頭に記載した通り、ITIL4は、ITIL v3のサービス・ライフサイクルをベースにした考え方から、サービスの価値に焦点を当てたサービスバリューシステムというアプローチに変更されています。
サービスバリューシステムは次の主要な5つのコンポーネントの連携によってITサービスマネジメントを構成しています。
- サービスバリューチェーン(SVC)
- 従うべき原則
- 継続的改善
- ガバナンス
- プラクティス
サービスバリューシステムでは、「機会/需要」が「サービスバリューチェーン」を通じて「価値」に変換されていきます。
サービスバリューチェーンの活動は「従うべき原則」と「継続的改善」の枠組みの中で実行され、「ガバナンス」と「プラクティス」が、実行を支援します。
サービスバリューチェーン(SVC)
サービスバリューシステムの中心となるのがサービスバリューチェーンであり、製品やサービスの開発と管理における活動を体系化しています。
サービスバリューチェーンは、以下の6つの活動で構成され、各活動を通じて顧客の「需要」が「価値」に変換されます。
エンゲージ
サービスバリューチェーンの最前線に位置付けられる。全ての利害関係者のニーズを正しく捉え、透明性がある良い関係を継続的に維持する。
計画
全てのサービスおよびサービスマネジメントの4つの側面(※1)について、事業のビジョンと現在の状況、改善の方向性について組織全体の整合性をとる。
設計および移行
サービスの品質、コストおよび市場投入までの期間に関して、利害関係者の期待に継続的に応える。
取得/構築
サービスコンポーネントが合意された仕様で、必要な場所と時期において確実に入手できるようにする。
改善
全てのSVC活動およびサービスマネジメントの4つの側面(※1)にわたって、サービスとプラクティスに対する継続的改善を維持する。
提供およびサポート
合意された仕様に従い、かつ利害関係者の期待に沿って確実にサービスを提供してサポートする。
(※1):「サービスマネジメントの4つの側面」サービスバリューシステムの中で、サービスの価値を効果的かつ効率的に実現するために必要な観点です。
- 組織と人材
- 情報と技術
- パートナーとサプライヤー
- バリューストリームとプロセス
プラクティス
プラクティスは、ITIL v3のプロセスと機能に替わる新しい概念で、業務の遂行や特定の目的の達成のために設計された、一連の組織リソースです。プラクティスは「実践」と読み替えられます。
ITIL4では下記の表のように、3つのカテゴリで、合計34のプラクティスが存在します。
(※2):サービスマネジメントに必要となる事業マネジメントのプラクティス
ガバナンス
自社のガバナンスは、組織を方向付け、コントロールするためのシステムで、「評価」「指揮」「モニタリング」の3活動で構成されています。各活動は以下の順で実施します。
- 利害関係者のビジネスニーズを、組織のビジョンと戦略に照らし合わせる
- サービスマネジメントの「4つの側面(※1)」と「6つの外的要因(※3)」の観点から「評価」する
- 「従うべき原則」に基づいて優先度付けと意思決定を実施する
(※3):4つの側面に対して制約や影響を与える要因です。
- 政治的要因
- 経済的要因
- 社会的要因
- 技術的要因
- 法的要因
- 環境的要因
従うべき原則
従うべき原則では、組織のサービスバリューシステム実現のための共通の価値観を示しています。従うべき原則には、以下の内容が存在します。
継続的改善
ITIL 4 の継続的改善モデルは、下記のフローで改善のステップを提案しています。
ゴールまでの道のりを小さく分け、次の7つのステップを使用して反復的に前進します。
- 事業のビジョン、ミッション、最終目標、および達成目標の確認
- ベースライン・アセスメントを実施
- 測定可能な目標を定義
- 改善計画を定義
- 改善の行動を実行
- 測定基準とKPIで行動結果を評価
- 継続の推進力を維持する方法について策定・実行
上記ステップの他に、大きなプロジェクトやマイルストーンの後には振り返りを実施しましょう。振り返りでは課題に対しての本音をチームメンバー同士で語り、今後の更なる改善に繋げていきます。課題についてチームメンバーが安心して本音を語れるように責任の追及や非難は行わず、課題について話し合いましょう。
ITIL®4で価値の共創を取り入れたITサービスマネジメントを
ITIL4は、ITサービスマネジメントのベストプラクティス(成功事例集)の最新版です。ITILv3のサービス・ライフサイクルをベースにした考え方から、価値に焦点を当てた「サービスバリューシステム」と呼ばれるアプローチに変更されています。アジャイル、リーン、DevOpsなどの最新のフレームワークを採用している組織にも適用可能です。従来の単一方向的なサービス提供の考え方から、顧客との価値の共創を重視する考え方に改善されています。
ぜひITIL4を導入してITシステムやITサービスの継続的な改善に役立てていきましょう。ITIL4の導入でお困りの際には、ぜひDXコンサルティングへお気軽にお問合せください。