COLUMN コラム

DX認定企業におけるデジタル広報の実態

アソシエイト・コンサルタント 熊田 彩希
アソシエイト・コンサルタント 下村 莉穂

1. はじめに

近年、デジタル技術の進化は企業活動のあらゆる側面に影響を与えています。
企業が情報技術(IT)やデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組み状況を発信すること(デジタル広報活動、または技術広報)は、単なる情報発信を超え、企業のブランド価値を高め、ステークホルダーとの信頼関係を築く重要な役割を担っています。

本コラムでは、「DX認定企業がどのようにしてIT・DXに関する取り組みや専門知識を社内外に効果的に伝えているのか」、その実態について調査した結果を解説します。
デジタル広報(技術広報)の重要性と、企業の成長戦略にどのように組み込むべきかを考える一助となれば幸いです。

2. デジタル広報(技術広報)とは

情報技術(IT)やデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する組織の取り組み状況や専門知識に関する情報を、社外および社内へ発信する広報活動のことを、本コラムではデジタル広報(技術広報)と定義します。

デジタル広報活動を社外向け及び社内向けに実施することにより、以下のような効果が期待できます。

社外

  • デジタル化の推進を目指した企業の取り組みについて、関係者(株主、投資家、求職者など)への説明責任を果たす
  • ITへの意識が高い企業であることをアピールし、企業のブランドイメージを向上させる

社内

  • 社員のIT知識やスキルを向上させ、業務効率を改善する
  • 社内のデジタル化を推進させるような、組織文化を醸成する

3. 当社で実施した調査について

企業が社内のIT関連活動をどの程度発信しているのか、デジタル広報活動の取り組み状況を調査しました。

調査対象

本調査の対象として、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2024」(以降、「DX認定企業」と記載する)に選定された企業にフォーカスし、デジタル広報の実態を調べました。
調査の実施にあたり、対象とする企業がデジタル広報活動で発信する内容となる、ITやDXに関する取り組みに対し、積極的であることが必要となります。
DX認定企業に選定された企業は、デジタル化に関して優れた取り組みの実施状況が評価されたことから、本調査の対象として設定しました。

※デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)とは?

DX銘柄とは、東京証券取引所に上場している企業の中から、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を選定することで、目標となる企業モデルを広く波及させ、経営者の意識改革を促すとともに、幅広いステークホルダーから評価を受けることで、DXの更なる促進を図るものです。
DX銘柄に選定された企業は、単に優れた情報システムの導入、データの利活用をするにとどまらず、デジタル技術を前提としたビジネスモデルそのもの及び経営の変革に果敢にチャレンジし続けている企業です。
また、企業の競争力強化に資するDXに向けた取組を強く後押しするため、銘柄選定企業の中から“デジタル時代を先導する企業”として「DXグランプリ企業」を発表します。
さらに、特に傑出した取組を継続している企業を「DXプラチナ企業2024-2026」として選定します。これら企業のさらなる活躍を期待するとともに、こうした優れた取組が他の企業におけるDXの取組の参考となることを期待します。

引用: “「DX銘柄2024」「DX注目企業2024」「DXプラチナ企業2024-2026」を選定しました!”.経済産業省.2024-5-27.
https://www.meti.go.jp/press/2024/05/20240527001/20240527001.html(参照2024‐11‐25)

調査観点

調査の観点として、次の3つの取り組みを実施しているか、また実施している場合、その内容について分析しました。

  1. DXサイトの公開
    本調査では、公開サイトのなかでも、企業のITやDXに関する取り組みの発信を専用としているサイトをDXサイトと定義する。
    DXサイトの有無とその内容を確認した。

  2. IRレポートにおけるITやDXに関する取り組みの発信
    IRレポートとは、一般的に企業が財務情報と非財務情報を統合して提供する報告書を指す。財務情報には企業の業績や財務状況に関するデータが含まれ、非財務情報には環境、社会、ガバナンス(ESG)に関する情報や、企業の長期的な価値創造に関する戦略やビジョンが含まれる。
    IRレポートにおけるITやDXに関する取り組みの発信の有無とその内容を確認した。

  3. ITレポートの公開
    本調査では、企業のITやDXに関する取り組みの発信を主題とした資料をITレポートと定義する。
    社外向けITレポート公開の有無とその内容を確認した。

調査の切り口

調査の切り口として、以下項目の有無について確認しました。

メッセージ ITやDX関連の経営陣によるメッセージ
DX戦略・ビジョン ITやDX関連の取り組みに対する企業戦略やビジョン
ロードマップ ITやDX関連の取り組みに関する事業計画、ロードマップ
体制 ITやDX関連の社内の取組体制
取組事例 ITやDX関連の企業の取組事例
リスク管理 ITやDX関連のサイバーセキュリティ体制などリスク管理の状況
人材育成 ITやDX関連の人材育成に関する取り組み
目標・指標 ITやDX関連の目標・指標
ニュース・ブログ ITやDX関連のニュースやブログ ※DXサイトのみ

4. 調査結果

調査結果と、調査の結果から見えてきたデジタル広報の実態についてまとめます。

① DXサイト

DX認定企業51社中36社(約70%)がDXサイトを公開していることが明らかになりました。

DXサイトの内容としては、「取組事例」や「DX戦略・ビジョン」の掲載が多くありました。

DXサイトへのアクセスルートは、投資家向け情報や製品・ソリューション情報、会社概要からリンクされている場合が多く、トップページから直接アクセスできる企業もあります。
ほとんどの企業で1ページほどにまとめられている一方、複数ページにわたって情報を発信している企業もあり、そういった企業は発信に力を入れている印象を受けました。

また、紹介動画や具体的なシステム名、画像を掲載している企業も同様に積極的な印象を受けました。
サイトにてDX人財を紹介している企業は、採用への意識も高いと考えられます。

DXサイトにおける「取組事例」記載例

取組概要 成果
A社
製造業(機械)
  • 生産計画を自動で立案するスケジューラ開発
    計画担当者の経験やスキルに依存せず、組合せ最適化技術を用いている。
  • 計画を生産現場に伝達するシステムの開発
    生産現場に計画がタイムリーに伝達されることで、作業実績の効率的な収集が可能となる。
システムを統合し、収集した作業データを次の生産計画に反映させることで、変動する要因に柔軟に対応できる生産現場をサポートしている。
B社
製造業(医薬品)
  • AIの活用
    病気の原因となる特定のタンパク質や遺伝子を見つける「ターゲット探索」や、さまざまな技術を使った分子設計にAIを活用し、会社で独自に持つ大量のデータを解析し、革新的な新薬の開発を目指している。
    AI技術は自社で開発するだけでなく、専門組織をパートナー企業として協働し、機械学習やディープラーニングの活用を進めている。
薬を開発する時間を大幅に短縮し、成功する確率を高めることができている。
C社
金融業
  • 新規システムの構築
    オンラインでの米国株取引をより便利にするために、新しいシステムを構築し、アメリカの市場が開いている時間にリアルタイムで株を売買でき、最新の株価情報をすぐに確認できるサービスや、取引の結果をタイムリーに知らせる機能を追加した。
顧客ニーズを捉えた商品・サービスの提供ができている。

DXサイトにおける「ニュース・ブログ」記載例

掲載内容
D社
卸売・小売業
  • DX銘柄への選定
  • 新システムの稼働開始
  • AIに関する学会への登壇予告
  • 物流DXに関する社外講演の予告
  • 自社専用対話型生成AIツールの導入開始

② IRレポート

今回調査したすべての企業が、IRレポートに社内のITやDXに関する情報をのせていました。

多くの企業が取り組み事例や人材育成、DX戦略・ビジョンを掲載しており、特集ページとして1~2ページにまとめる企業もあれば、多くのページにわたって情報を分散して掲載する企業もあります。
特に、人材育成のページにデジタル関連の育成方針を記載する例が多くみられました。

IRレポートは投資家向け情報として、中長期経営計画と連動したDXの全体ビジョンや戦略、該当年の進捗を定性的・定量的に記載しています。
また、翌年度以降の新たな取り組みや進行中プロジェクトの目標も明示されています。

IRレポートにおける記載例

内容
E社
製造業(化学)
  • 実績
    デジタルプロフェッショナル人財(人数で報告)
    デジタルデータ活用量(前年比で報告)
    増益貢献(億単位での報告)
  • 翌年度の目標
    デジタルプロフェッショナル人財(前年比で目標設定)
    グループ全体のデジタルデータ活用量(前年比で目標設定)
    通常活動のDX活用による利益貢献に加え、選定した重点テーマで増益貢献を目指す(億単位で目標設定)

③ ITレポート

DX認定企業51社中8社(約15%)がITレポートを作成していました。

ITレポートに取り組んでいる企業はまだ少数派であるとも考えられますが、ITレポートを持つ企業はすべてDXサイトも公開しており、デジタル広報への意識が特に高いことが伺えます。

レポートの形態は多様で、IRレポートのように報告書形式で詳細に記載するものや、社外向け説明会のPPT資料を掲載するケースもみられます。
形式は決まっておらず、各社の特色がみられました。内容としては、取り組み事例やDX・ビジョン、人材育成、体制などがバランスよく記載されており、複数の事業を展開する企業では、事業部門ごとに説明している例も見受けられました。

ITレポートにおける記載例

内容
F社
製造業(鉄鋼)
  • エンジニアリング事業ほか
    洋上風力分野におけるビッグデータ解析など
  • 鉄鋼事業
    ソリューション商品をクラウド上に搭載できるシステム基盤と運用体制の構築
  • 商社事業
    GPS端末を利用した物流トラッキングサービスの開始など
  • ※人材育成についても部門別に紹介

5. まとめ

DX認定企業におけるデジタル広報活動取り組み状況の調査から、多くの企業が積極的にデジタル広報活動に取り組んでいることがみえてきました。

近年、デジタル技術の進化は企業活動のあらゆる側面に影響を与えています。
その中でも、デジタル広報は企業の成長と競争力を維持するために欠かせない要素となっており、今後の企業活動においては、より重要性が高くなっていくことが考えられます。

まず、デジタル広報は企業のブランドイメージを強化する役割を果たします。
現代の消費者やビジネスパートナーは、企業がどのようにデジタル技術を活用しているかに注目しています。
デジタル広報を通じて、企業が最新の技術をどのように導入し、どのように業務を効率化しているかを伝えることで、信頼性と革新性をアピールすることができます。
これにより、企業のブランド価値が向上し、競争優位性を確立することが可能です。

次に、デジタル広報は社内コミュニケーションの活性化にも寄与します。
ITやDXに関する情報を社内に共有することで、従業員の理解と協力を促進します。
特に、DXは全社的な取り組みであるため、各部門が一丸となって進めることが求められます。
デジタル広報を通じて、成功事例や課題を共有することで、従業員のモチベーションを高め、組織全体の一体感を醸成することができます。

さらに、デジタル広報はリスク管理の観点からも重要です。
情報の透明性を高めることで、誤解や不信感を未然に防ぐことができます。
特に、デジタル技術に関する誤った情報が広まると、企業の評判に悪影響を及ぼす可能性があります。
正確でタイムリーな情報発信を行うことで、企業の信頼性を維持し、リスクを最小限に抑えることができます。

最後に、デジタル広報は新たなビジネスチャンスを創出する可能性を秘めています。
外部に向けて自社の技術力や取り組みを発信することで、新たなパートナーシップや顧客を獲得するきっかけとなります。
また、業界内での地位を確立し、他社との差別化を図ることができます。

以上のように、デジタル広報は企業にとって多くのメリットをもたらします。
ITやDXの取り組みを効果的に発信することは、企業の成長を支える重要な戦略となるでしょう。
企業はこの重要性を理解し、積極的にデジタル広報を推進することが求められています。

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